一針入魂 縫製職人の声

裁断:渡辺 政照 裁断:三好 三郎 縫製:渡辺 忍

紳士服 松崎の「質」を支える職人気質

  先日、お客様からこのようなご質問をいただきました。「良いオーダースーツとは、どのような洋服のことですか?」ということです。
 それは「作る側と着る側では、少し捉まえ方が違うのです。」と前置きをして、私たちはこのようにお答えしました。(作る側と着る側の相違点と、相互の満足感については、今後詳しくご説明致します。)
 「一般的には素材、スタイル、仕立ての3拍子揃ったものが最良のスーツだと考えています。」
 また、視点を変えればその3拍子にプラスして「着心地の良さはもちろん、着る人の風格や品格を含んだ、人格そのものが反映される洋服が最良のスーツだと思います。」ということも付け加えました。
 今回は、このようなお客様のご質問を機に、紳士服 松崎のオーダースーツの基本を、私たち服職人からの視点で、もう少し深くご説明させて頂きたいと思います。
 私たちが作る洋服、それは仕立て映えする生地を使って、本当に着心地の良い服を作ることです。
 その為には、1番目に『生地』についてのご説明が必要です。営業担当者がお客様のご要望をお聞きして、最適な生地を選定するのですが、松崎では決して有名ブランドのネームバリューだけに依存することはありません。むしろその逆で、あえてイギリスのミル物、つまり、メジャーなブランドにこだわらず、数百年の歴史をもつ工場が生産するオリジナルの生地を使用することのこだわりです。これには理由があり、ミル物は比較的、品質も価格も安定しているのが特長で、自信をもってお客様にご提供できる訳です。
 また、良いスーツを仕立てる為の生地選びのポイントとして『色合わせ』『柄合わせ』『素材合わせ』と言う『合わせ所』の基本もおさえておきたいところです。
 2番目に『スタイル』についてですが、流行と言う曖昧模糊?もしくは若い人を対象に仕掛けられたメディア型ファッショントレンドと呼ぶべきでしょうか、その流行なるものをいかにお客様のスーツに反映させるか?が大切だと考えています。
 最近ではパンツもタック付きだったものから、20年程前に流行ったノータックで細み、裾はダブル仕上げが主流になりつつあります。私たちはこのようなトレンドを、松崎ならではのエツセンスを加え、お客様のご希望に合った流行の取り入れ方でご提供しております。
 3番目に『仕立て』ですが、これは縫製技術で洋服の出来が左右されると言っても過言ではありません。その中で、裁断工程はもちろん『芯据え』工程が最も重要となります。文字通りスーツの芯になるもので、この工程が完全に出来ていないと、決して良いスーツは仕上がりません。(この『芯据え』については、今後詳しくご説明致します。)
 また、縫製に付随する糸や針のこだわりも見逃せません。生地の種類により縫い糸を変えるのは当然のこと、生地の縦糸、横糸を考慮しながら仕上げてゆきますので、1着縫い上げるのには日数はもちろん、私たち経験を積んだ者でも緊張と神経を使う作業となるのです。
 このように、『良いオーダースーツ』が出来上がるまでには、さまざまなプロセスを経て出来上がるものです。ただ、忘れてはならないのは、洋服は私たちだけで作っているものでは無いという事です。お客様のご要望をお聞きし、共に前向きな意見交換をさせて頂く事で『お客様と共に創り上げる』これが真のオーダーメードであり、それで完成されたものこそが『良いオーダースーツ』だと確信しております。
 着物文化、日本。から洋服文化、日本へ移り変わってわずか140年余り。世界から見ればまだまだ洋服の歴史が浅い日本ですが、現在では日本人特有のモノづくりにおける気質を基本に、縫製の技術力も世界でもトップクラスになりました。この道程を切り開かれた先人の方々に敬意をはらうと同時に、今後は私たちが新しい技術で次代に継承する事が使命と受け止めこれからも『良いスーツ作り』に励みたいと考えております。